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ふたりぼっちのリサイタル

(過去の日付に遡って投稿することがあります/最新投稿日の2~5個くらいが最新の投稿になっていることが多いです)

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2024.11.24 (Sun) Category : 

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約束まであと一分

2020.09.12 (Sat) Category : 小話

お題は確かに恋だった様から。ありがとうございます。
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『15時27分着のでそっち行くから』
15:27、日に焼けて薄く黄ばんだ時刻表の無意味な数字の羅列を指でなぞる。携帯電話を見ても君からの連絡はない。

沈みかけた日は足元に濃い影を落とし、まだ来ない夜を予感させる。いつの間にかまた日が短くなっていた。まだ、まだと、未練がましく残る暑さが自分みたいでなんだか惨めになる。
田舎の無人駅にはびっくりするくらい何もない。周辺には店はおろか家だってまばらだし、それどころか信号機もないし車だって通らない。どこか遠くで虫と鳥の鳴く声が聞こえていたけれど、時が止まったみたいに静かだった。

涼しい風と一緒に金木犀の香りが流れてきて思わず空を仰いだ。前に会ったのはいつだっけ。何の話をしたんだっけ。忘れてしまうから、忘れないように約束をしたはずだったのに。
約束の時間に君が来ないことはわかっていた。でも待つのは嫌いじゃないから、もう少しだけここにいようかな。

金木犀は君の好きな香りだった。夏の終わり、少し寒くなった日の朝が好きだと言っていた。このくらいの時期になるといつも温かいコーヒーを飲んでた。何の話をしたのか今はもう覚えてないけれど、君とたくさん他愛のない話をして楽しかったことはちゃんと覚えてる。

廃線に電車は通らない。役割を終えた廃駅で2度と来ない君を待つ。
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忘却の深海

2020.08.26 (Wed) Category : 小話

別所で書いてる映画監督になりたい女子高生と演技が上手な器用な男子高校生の話です。
タイトルはシュレーディンガーの恋様から。ありがとうございます。
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兄、弟、恋人、同級生、他人、父親なんてのもあった。1週間ごとに変わる『キャラクター設定』はいくら高橋さんが気に入ってもそれ以上長くは続かなかった。言われるままに役を演じるのは正直そんなに難しくはないんだけれど、僕はこの人の真意を測りかねたまま毎週金曜日を迎えてしまう。
高橋さんと『ひみつ』を始めてしばらく経つけれど、実は僕が高橋さんについて知っていることはそんなに多くはない。映画が好きで、脚本や構成を考えるのが好きだとか、お洒落で、よく髪型を変えることとか。多分きっとそのくらい。

海に着くと、ぐしゃぐしゃにした紙の入った瓶を高橋さんが海に投げ入れた。何だっけ、昔の映画で見たことがあるような気がする。
「何それ」
「メッセージインアボトル」
潮騒の間を縫うようにして、高橋さんが静かに返した。瓶はどぼんと低い音と水しぶきを上げてそれきり見えなくなる。
「隠し事は海の中に静めましょうっていう話」
「忘れろっていうなら全部忘れるよ」
今週の僕の『役の彼』らしく優しく微笑んでみせる。それが『俺たち』を生み出した神の望みなら仕方ない。

いつからだったか正確には覚えていない。退屈凌ぎとほんの少しだけ残る寂しさを一人じゃどうすることもできなくて、あやすみたいに互いに何かを誤魔化すみたいに甘やかしていた。
僕も高橋さんもどちらかと言えば目先の不幸に酔えないタイプだったから一時凌ぎだというのはわかっていた。そして、この関係がたぶんそう長くは続かないということも。
「応急処置みたいだね」
『役』に沿うように甘たるい声で囁いてみたのに、高橋さんは苦虫を嚙み潰したみたいな顔で僕を見た。昨日と今日を騙すみたいに距離を縮めて体温を共有したけれど、抱き締められても高橋さんは微動だにしなかった。
「みことくん……リセットするのは金曜日で大丈夫だから」
さっき人でも殺したんじゃないかってくらい、高橋さんの声は震えていた。傷はなかなかに深い、これはしばらく忘れられなさそうだ。うっかり塩を塗らないようにしないと。
「了解」

君の考えていることはわからないけど、わかんないからもうちょっとだけ従順な器でいさせてくれないかな。答え合わせをしない僕は、正解がわからないまま今週も折り返し地点を過ぎる。

最初から嘘だった

2020.08.14 (Fri) Category : 小話

一週間ごとに決められたお題をもとに小話を書く企画にゆるゆる参加しています。企画主さんから小話掲載の許可をいただいたのでこちらでも文章を載せておきます。
小説サイトといいながら文章らしいものをしばらく更新していないから…笑 書くのは嫌いじゃないんです。習慣にならないだけで。
お題は確かに恋だった様から。ありがとうございます。
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じりじりと焼き付ける日差しの音が聞こえるんじゃないかってくらい辺りは静かだった。焼けた君の肌に汗と涙が滲む。ごめんねと言ったら嘘に拍車をかけるような気がして何も言えなかった。
君は僕を鋭く睨む。その時多分、君と初めて目が合った。
「どうするのこれ」
知らないと返した声はあまりにも乾いていて、他人みたいで、自分から突き放したくせに僕は勝手におしまいを悟った。
今までのことはなんて解釈すればいいんだろうね。嘘で片付けばよかったんだけれど。

睨んでいたのはわずかな時間で、すぐに君は顔を逸らした。君はあんまり笑ったり怒ったりするのが上手じゃなかったけれど、君の言いたいことはよく解る。
意味のないたらればを頭の中で何度も繰り返しながら、僕も君に背を向けた。

偽りの関係は何にもならない。だから僕らの間に思い出はないし、別れなどあるはずがないのだ。
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