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ふたりぼっちのリサイタル

(過去の日付に遡って投稿することがあります/最新投稿日の2~5個くらいが最新の投稿になっていることが多いです)

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2024.04.16 (Tue) Category : 

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ヒーローになりたかった

2020.10.17 (Sat) Category : 小話

お題は3秒後に死ぬ様から。ありがとうございます。
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テレビの中で怪獣が大きな音を立てて倒れ込む。周りの建物や電柱とかを巻き込んで激しい火花がちかちかと瞬いた。日曜日の朝、僕は箱の前で毎週繰り返される激闘に息を呑む。
子どもなら誰もが一度は夢見たであろうヒーローの姿に、いまだに憧れを燻らせている。

けれど現実にはヒーローなんていないし、怪獣みたいなわかりやすい『敵』なんてのもいなかった。大よそ似たような言語を話す人間には嘘や下心がふんだんに盛り込まれていて、まるで宇宙人を相手にしているみたいでぐったりする。
「寂しいから一緒にいてよ」
そう言ったあいちゃんからは全然寂しさが感じられなかった。話題の映画を一緒くたに『泣ける』って評価するような滑稽さが浮いて見えた。
あいちゃんは顔がかわいくて声がかわいくて仕草もかわいくて、女の子の中でもちっちゃくて守ってあげたくなるような子だった。けれどあいちゃんの可愛さは他の女の子たちからは嫌われるようで、どこのグループにも馴染めずにいた。
あいちゃんはわかりやすく可哀想でその割には全然寂しくなさそうで、それがずぶずぶと沈んだ庇護欲をくすぐるには丁度よかった。

欲しがる時に適当に抱きしめて、確認するように髪に触れた。自分のじゃないさらさらの長い髪に指を滑らせると、あいちゃんは声をあげずにくすくすと笑った。
「何でもやってあげることが優しさじゃないんだよ」
「……わかってる」
「可哀想に。わかってないから言ってるんだよ」
甘ったるい声だったけれど、あいちゃんは言及を緩めなかった。でもあいちゃんも僕の背に回した手を離さないのだから、一緒にこのぬるま湯に溺れているんだと思いたかった。
「……わかってるから」
「分からず屋」
僕はあいちゃんの全てではなかったけれど、僕にとっては彼女が全てだった。あいちゃんは正義で、絶対的な悪で、神様で、いつの間にか僕の世界を司っていた。
名前を呼んでも肌に触れてもどれだけ慈しんでも手に入らない幸福はテレビの向こう側の非現実によく似ている。それならいっそのことフィクションであってほしかった。そしたら諦めもついたのに。

わかりやすい悪役がいて欲しかった。そしたら変身道具なんてなくても、君を守ってみせるのに。
「あいちゃん……好きだよ」
抱き締めたまま吐き出した言葉は告白と呼ぶにはあまりにも哀れで、懺悔のようにも聞こえた。
「嘘つき」
小さな手が慰めるように僕の頭を優しく撫でた。
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黎明を切り裂いて葬送

2020.09.26 (Sat) Category : 小話

お題はいばら様から。ありがとうございます。
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 溶けた藍の空の先から僅かに滲んだ朱色が静かに暁を告げる。
「人間は関係性の中でしか生きられない」
 荻原はそう言ったけれど、じゃあこの関係は何て言えばいいのだろう。友人と呼ぶほど親しくもないし、恋人と呼べるほど愛しているわけじゃない。幼馴染というほど付き合いは長くないし、ただの知人と呼ぶにはあまりにも知りすぎていた。
「え?」
 疑心と否定を含んだ声色は冷たい空気の中で溶け切らずに残った。コーヒーの底に残る砂糖みたいなざらざらとした後味の悪さは多分後悔によく似ていた。
 彼は同業者、いや、感覚としては共犯者に近い。私も彼も互いの弱みに付け込んで相手を利用しているくせに、相手のためだと言い聞かせて思考停止を手伝っている。
 短所はひっくり返せば長所になるだなんてよく言うけれど、冗談はよしてほしい。短所はどこまでいっても短所なんだって、諦めの早い自分達は知っている。それは絶望なんて大層なものではない。そもそも望みのある選択肢が最初からなかっただけなのだ。諦めるのが一番楽で、きっと一番苦しくない。

 殴った時に手がじんじんと痛くなるのが好きだった。手に熱が集まってしびれるみたいに熱くて、外気との温度差が心地いい。確かめるみたいにもう一回手をあげる。今度はパァンと高い音が弾ける。特に何の落ち度もなく殴られた彼は赤くなった頬を手で押さえて静かに私を見上げた。人形みたいな透明感のある瞳が逃げるように揺らいで、支配に怯える彼の姿に私は少しだけ興奮していた。
 父親に似て暴力を振るうことでしかストレスを表出できない私と、母親の影に囚われて殴られることでしか愛情を確かめることができない彼と。馬鹿なのはどっちだろうね。
 彼の頬は赤くて痛そうだったけれど殴った私の手だって痛かった。だから平等だなんて言わないけれど、でももう沢山だ、沢山だった。弁解に言い訳を重ねすぎて、誰に何を言いたいのかすらわからなくなっていた。
「……常識的にさ、殴るのはいけないことだって、知ってはいるんだけれど、どうもいまいち理解できないんだよね」
「そうそう。最初から手段に『暴力』のコマンドがあるもんね、僕ら。別にいいけど」
 乾いた笑いで荻原が同意した。
「でも普通はないらしいじゃん?」
「普通がいい?」
「普通がいいでしょ」
 間髪入れずに返したら、そっかと言った荻原の声は悲しそうで、消えそうなくらい弱々しかった。
「じゃあなくす?」
「は?」
「今まで僕たちを縛り付けてきた散々な記憶を、思い出を、殺して……弔い、悼もうか」
「……なんで、そんなことできるの……?」
 それは今までの私達を根底から否定することに違いなかった。もしも私達を形成してきた『過去』が死んでしまったら、私は、君との関係は。
 痛いくらいに眩しい朝日が全てを平等に照らす。薄水色の空が薄らいで明るくなりだして、うすぼんやりと残る白い月が消えかけていた。私達を包んでいた夜が朝に殺されて、静かに死んでいく。

「小夜ちゃんが手をあげたら、今度は僕が殴ってでも止めてあげるから」
 ふふっと笑った荻原の頬は不自然に片方だけが赤く腫れていて、彼に手をあげられるところを想像して息を呑んだ。これまでの自分がしてきたように、叩いて、突き飛ばして、首を絞めて、全力で存在を否定されたら、私はきっとそれを愛だとは思わない。
「それって暴力じゃん」
「ああそうか、殴っちゃいけないのか。難しいね人間」
「難しいね」
 朝が来る。暴力に頼ることのできない、新しい朝が来る。
 暴力への正しい解答も、君との関係性もいつまでもわからないから、わからないけど一緒にいようよ。

約束まであと一分

2020.09.12 (Sat) Category : 小話

お題は確かに恋だった様から。ありがとうございます。
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『15時27分着のでそっち行くから』
15:27、日に焼けて薄く黄ばんだ時刻表の無意味な数字の羅列を指でなぞる。携帯電話を見ても君からの連絡はない。

沈みかけた日は足元に濃い影を落とし、まだ来ない夜を予感させる。いつの間にかまた日が短くなっていた。まだ、まだと、未練がましく残る暑さが自分みたいでなんだか惨めになる。
田舎の無人駅にはびっくりするくらい何もない。周辺には店はおろか家だってまばらだし、それどころか信号機もないし車だって通らない。どこか遠くで虫と鳥の鳴く声が聞こえていたけれど、時が止まったみたいに静かだった。

涼しい風と一緒に金木犀の香りが流れてきて思わず空を仰いだ。前に会ったのはいつだっけ。何の話をしたんだっけ。忘れてしまうから、忘れないように約束をしたはずだったのに。
約束の時間に君が来ないことはわかっていた。でも待つのは嫌いじゃないから、もう少しだけここにいようかな。

金木犀は君の好きな香りだった。夏の終わり、少し寒くなった日の朝が好きだと言っていた。このくらいの時期になるといつも温かいコーヒーを飲んでた。何の話をしたのか今はもう覚えてないけれど、君とたくさん他愛のない話をして楽しかったことはちゃんと覚えてる。

廃線に電車は通らない。役割を終えた廃駅で2度と来ない君を待つ。
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