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ふたりぼっちのリサイタル

(過去の日付に遡って投稿することがあります/最新投稿日の2~5個くらいが最新の投稿になっていることが多いです)

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2024.11.24 (Sun) Category : 

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忘却の深海

2020.08.26 (Wed) Category : 小話

別所で書いてる映画監督になりたい女子高生と演技が上手な器用な男子高校生の話です。
タイトルはシュレーディンガーの恋様から。ありがとうございます。
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兄、弟、恋人、同級生、他人、父親なんてのもあった。1週間ごとに変わる『キャラクター設定』はいくら高橋さんが気に入ってもそれ以上長くは続かなかった。言われるままに役を演じるのは正直そんなに難しくはないんだけれど、僕はこの人の真意を測りかねたまま毎週金曜日を迎えてしまう。
高橋さんと『ひみつ』を始めてしばらく経つけれど、実は僕が高橋さんについて知っていることはそんなに多くはない。映画が好きで、脚本や構成を考えるのが好きだとか、お洒落で、よく髪型を変えることとか。多分きっとそのくらい。

海に着くと、ぐしゃぐしゃにした紙の入った瓶を高橋さんが海に投げ入れた。何だっけ、昔の映画で見たことがあるような気がする。
「何それ」
「メッセージインアボトル」
潮騒の間を縫うようにして、高橋さんが静かに返した。瓶はどぼんと低い音と水しぶきを上げてそれきり見えなくなる。
「隠し事は海の中に静めましょうっていう話」
「忘れろっていうなら全部忘れるよ」
今週の僕の『役の彼』らしく優しく微笑んでみせる。それが『俺たち』を生み出した神の望みなら仕方ない。

いつからだったか正確には覚えていない。退屈凌ぎとほんの少しだけ残る寂しさを一人じゃどうすることもできなくて、あやすみたいに互いに何かを誤魔化すみたいに甘やかしていた。
僕も高橋さんもどちらかと言えば目先の不幸に酔えないタイプだったから一時凌ぎだというのはわかっていた。そして、この関係がたぶんそう長くは続かないということも。
「応急処置みたいだね」
『役』に沿うように甘たるい声で囁いてみたのに、高橋さんは苦虫を嚙み潰したみたいな顔で僕を見た。昨日と今日を騙すみたいに距離を縮めて体温を共有したけれど、抱き締められても高橋さんは微動だにしなかった。
「みことくん……リセットするのは金曜日で大丈夫だから」
さっき人でも殺したんじゃないかってくらい、高橋さんの声は震えていた。傷はなかなかに深い、これはしばらく忘れられなさそうだ。うっかり塩を塗らないようにしないと。
「了解」

君の考えていることはわからないけど、わかんないからもうちょっとだけ従順な器でいさせてくれないかな。答え合わせをしない僕は、正解がわからないまま今週も折り返し地点を過ぎる。
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