ふたりぼっちのリサイタル
(過去の日付に遡って投稿することがあります/最新投稿日の2~5個くらいが最新の投稿になっていることが多いです)
約束まであと一分
2020.09.12 (Sat) | Category : 小話
お題は確かに恋だった様から。ありがとうございます。
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涼しい風と一緒に金木犀の香りが流れてきて思わず空を仰いだ。前に会ったのはいつだっけ。何の話をしたんだっけ。忘れてしまうから、忘れないように約束をしたはずだったのに。
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『15時27分着のでそっち行くから』
15:27、日に焼けて薄く黄ばんだ時刻表の無意味な数字の羅列を指でなぞる。携帯電話を見ても君からの連絡はない。
沈みかけた日は足元に濃い影を落とし、まだ来ない夜を予感させる。いつの間にかまた日が短くなっていた。まだ、まだと、未練がましく残る暑さが自分みたいでなんだか惨めになる。
15:27、日に焼けて薄く黄ばんだ時刻表の無意味な数字の羅列を指でなぞる。携帯電話を見ても君からの連絡はない。
沈みかけた日は足元に濃い影を落とし、まだ来ない夜を予感させる。いつの間にかまた日が短くなっていた。まだ、まだと、未練がましく残る暑さが自分みたいでなんだか惨めになる。
田舎の無人駅にはびっくりするくらい何もない。周辺には店はおろか家だってまばらだし、それどころか信号機もないし車だって通らない。どこか遠くで虫と鳥の鳴く声が聞こえていたけれど、時が止まったみたいに静かだった。
涼しい風と一緒に金木犀の香りが流れてきて思わず空を仰いだ。前に会ったのはいつだっけ。何の話をしたんだっけ。忘れてしまうから、忘れないように約束をしたはずだったのに。
約束の時間に君が来ないことはわかっていた。でも待つのは嫌いじゃないから、もう少しだけここにいようかな。
金木犀は君の好きな香りだった。夏の終わり、少し寒くなった日の朝が好きだと言っていた。このくらいの時期になるといつも温かいコーヒーを飲んでた。何の話をしたのか今はもう覚えてないけれど、君とたくさん他愛のない話をして楽しかったことはちゃんと覚えてる。
廃線に電車は通らない。役割を終えた廃駅で2度と来ない君を待つ。
廃線に電車は通らない。役割を終えた廃駅で2度と来ない君を待つ。
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