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ふたりぼっちのリサイタル

(過去の日付に遡って投稿することがあります/最新投稿日の2~5個くらいが最新の投稿になっていることが多いです)

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2024.11.24 (Sun) Category : 

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ヒーローになりたかった

2020.10.17 (Sat) Category : 小話

お題は3秒後に死ぬ様から。ありがとうございます。
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テレビの中で怪獣が大きな音を立てて倒れ込む。周りの建物や電柱とかを巻き込んで激しい火花がちかちかと瞬いた。日曜日の朝、僕は箱の前で毎週繰り返される激闘に息を呑む。
子どもなら誰もが一度は夢見たであろうヒーローの姿に、いまだに憧れを燻らせている。

けれど現実にはヒーローなんていないし、怪獣みたいなわかりやすい『敵』なんてのもいなかった。大よそ似たような言語を話す人間には嘘や下心がふんだんに盛り込まれていて、まるで宇宙人を相手にしているみたいでぐったりする。
「寂しいから一緒にいてよ」
そう言ったあいちゃんからは全然寂しさが感じられなかった。話題の映画を一緒くたに『泣ける』って評価するような滑稽さが浮いて見えた。
あいちゃんは顔がかわいくて声がかわいくて仕草もかわいくて、女の子の中でもちっちゃくて守ってあげたくなるような子だった。けれどあいちゃんの可愛さは他の女の子たちからは嫌われるようで、どこのグループにも馴染めずにいた。
あいちゃんはわかりやすく可哀想でその割には全然寂しくなさそうで、それがずぶずぶと沈んだ庇護欲をくすぐるには丁度よかった。

欲しがる時に適当に抱きしめて、確認するように髪に触れた。自分のじゃないさらさらの長い髪に指を滑らせると、あいちゃんは声をあげずにくすくすと笑った。
「何でもやってあげることが優しさじゃないんだよ」
「……わかってる」
「可哀想に。わかってないから言ってるんだよ」
甘ったるい声だったけれど、あいちゃんは言及を緩めなかった。でもあいちゃんも僕の背に回した手を離さないのだから、一緒にこのぬるま湯に溺れているんだと思いたかった。
「……わかってるから」
「分からず屋」
僕はあいちゃんの全てではなかったけれど、僕にとっては彼女が全てだった。あいちゃんは正義で、絶対的な悪で、神様で、いつの間にか僕の世界を司っていた。
名前を呼んでも肌に触れてもどれだけ慈しんでも手に入らない幸福はテレビの向こう側の非現実によく似ている。それならいっそのことフィクションであってほしかった。そしたら諦めもついたのに。

わかりやすい悪役がいて欲しかった。そしたら変身道具なんてなくても、君を守ってみせるのに。
「あいちゃん……好きだよ」
抱き締めたまま吐き出した言葉は告白と呼ぶにはあまりにも哀れで、懺悔のようにも聞こえた。
「嘘つき」
小さな手が慰めるように僕の頭を優しく撫でた。
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